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フリーエディターの竹石祐三が、大いに頭を悩ませて選び抜いたG-SHOCK「MRG-B2100D」を掲載する。

2024年発表モデルのうち、G-SHOCK「MRG-B2100D」を勧める
2020年以降、海外の見本市には参加できずにいる。そのため実際に手に取って確認できる新作の数はぐっと減ったが、限られた中でもいくつもの印象に残るモデルに出合えているのはラッキーというほかない。……いや、それだけ各ブランドがクォリティーの高いモデルを数多く発表しているということか。それゆえ「2024年発表モデルからお勧めの1本を挙げよ」というミッションにはいつものことながら大いに頭を悩ませたのだが、そんな中で捻り出したのがMR-Gの「MRG-B2100D」である。

G-SHOCK「MRG-B2100 Series」Ref.MRG-B2100D-1AJR
スーパーコピー時計 代引きタフソーラー。フル充電時約22カ月駆動(パワーセーブ時)。64Ti×コバリオンケース(縦49.5×横44.4mm、厚さ13.6mm)。20気圧防水。57万2000円(税込み)。
ベースとなっているG-SHOCKの「2100」とは、初号機のフィロソフィーを継承しつつ、デザインを現代的にアップデートさせたシリーズ。これをG-SHOCK最高峰のMR-Gクォリティーで作り上げたモデルが、2024年5月にアナウンスされた「MRG-B2100B」で、八角形ベゼルを備えた特徴的なルックスはそのまま、外装素材にチタンとコバリオンを採用し、表示もアナログのみとした。筆者の推しであるMRG-B2100Dはその第2弾。基本的な仕様は前作と同様に、ベゼル、ケース、ブレスレットのカラーをシルバー色に変更したモデルだ。

G-SHOCK 新作 MRG-B2100B
G-SHOCK「MRG-B2100 Series」Ref.MRG-B2100B-1AJR
2024年5月にローンチされた「MRG-B2100B」。MR-Gコレクションとして、初めて「2100」シリーズを採用したモデルだ。タフソーラー。フル充電時約18カ月(パワーセーブ時)。Ti×コバリオン(ベゼルトップ)×64チタンケース(縦49.5×横44.4mm、厚さ13.6mm)。20気圧防水。64万9000円(税込み)。

前掲のMRG-B2100Bと比較して、竹石が推すMRG-B2100Dはシルバー色が基調となっている。耐摩耗性を高めるために、外装の表面にはチタンカーバイト処理が施されている。

「MRG-B2100D」の見どころ
他のG-SHOCKやMR-Gと比べてしまうと、実にらしからぬシンプルデザインなのだが、それでも見どころが多いのはさすがカシオ。とりわけ本作において特筆すべきはダイアルで、木組に着想を得たこの意匠は日本の伝統技術のエレメントを巧みに取り入れるカシオのセンスが表れており、立体的な格子状のデザインがソリッドな外装の中で主張しすぎることなく、ほどよいアクセントになっている。しかもソーラー発電に必要な光を格子の隙間からさりげなく取り込むという、機能とルックスを兼ね備えたデザインエレメントになっているのだから、その発想力はさすがというほかない。

また外装だが、これは2022年にリリースされて話題となった「MRG-B5000」と同じく、細分化したパーツを組み上げる構造が採用されている。これにより、細かな凹部までしっかりと磨き上げることが可能になり、さらにベゼルは、研磨することでプラチナに匹敵する輝きを放つコバリオンで製作したことで、G-SHOCK最高峰シリーズのMR-G……というより、高級時計にふさわしい質感に仕上がっている。実際に本作を手に取るとわかるが、マットな質感をメインに、ベゼルの斜面やブレスレットの一部を鏡面とする仕上げ分けのバランスも見事で、高級感を与えつつ、G-SHOCKらしいタフな印象やツールっぽさも失われていない。

複雑な形状ながら、パーツを細分化することで細部まで研磨を施したMR-G。加えて耐衝撃構造と両立するため、ベゼルの各パーツとケースの間に緩衝体を組み込むことでモジュールを衝撃から保護するマルチガードストラクチャー構造となっている。
ケースは直径が44.4mm、厚さは13.6mmと、小径モデルがトレンドとなりつつある昨今においてはやや大きめだ。だが、外装素材にチタンとコバリオンを用いたことで、公称値は122gと軽量。たしかに外装にチタンを使った他のMR-Gと同様、その佇まいこそソリッドかつマッシブだが装着感は軽快で、これなら積極的に身に着けたくなる。

なぜ“第2弾”モデルが推しなのか?
と、ここまではMRG-B2100の両モデルに共通する感想なのだが、その中でも2024年の推し時計として“第2弾”のMRG-B2100Dを選んだのはなぜか。それは第1弾モデルが外装をブラックでまとめたことにより、G-SHOCKらしさが色濃く出ていたから。G-SHOCKなのでそれは当然だし、ファンも“らしさ”を求めるだろうから、最初にフルブラックのモデルをリリースするのはうなずける。だが筆者は、シルバー色の外装を組み合わせた、よりベーシックなルックスだからこそ本作に惹かれた。つまりG-SHOCK“らしさ”が抑えられた、ごく普通の高級時計然とした佇まいのMR-Gがラインナップされたことに、ちょっとした驚きを感じたのだ。

本作についての取材を行った際、カシオの担当者から雑談レベルの会話の中で「これ、結構いいでしょ?」と訊かれたことが印象に残っている。スタンダードな高級時計らしいルックスに仕上がったことに対する満足感が伝わってきたからだ。MR-Gのクォリティーと性能を確保しながらもルックスは実にベーシック──そのギャップとインパクトが、本作を強烈に印象づけた。

2025年の新作モデルのうち、特筆すべきドレスウォッチを5本選出した。

ジャガー・ルクルト「レベルソ・トリビュート・モノフェイス」

ジャガー・ルクルト「レベルソ・トリビュート・モノフェイス」Ref.Q7168420
手巻き(Cal.822)。19石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約42時間。SSケース(縦40.1×横24.4mm、厚さ7.56mm)。3気圧防水。139万9200円(税込み)。
ジャガー・ルクルトのアイコンのひとつである「レベルソ」のラインナップは多岐にわたる。その中で、オリジナルモデルの趣を色濃く残した「レベルソ・トリビュート・モノフェイス」の新作を取り上げよう。本作は、1931年に同社が発表したオリジナルモデルに、非常に近いプロポーションに仕上げた新サイズである。

縦40.1mm、横24.4mm、厚さ7.56mmのサイズ感は、現代基準ではコンパクトなモデルに分類される。ここ数年にわたって各社はコンパクトなモデルのラインナップを充実させており、その理由としては、一時期の大型化からの揺り返しや、ファッションスタイルの多用化、女性顧客の増加などが考えられる。本作のラインナップへの追加は、そのような背景の下によるものと予想されるが、手首のサイズを問わずにフィットするサイズ感は広く歓迎されることだろう。

機能は、片面に時分表示とオリジナルに準じたもの。また、ロゴとインデックス、ミニッツウェイトラックのみで構成される文字盤はエッセンシャルで、コンパクトなサイズ感も相まってクラシカルかつエレガントな仕上がりである。搭載されるのは、古典的な角型ムーブメントの傑作のひとつであるCal.822。この意匠とムーブメントの組み合わせは、本作を選びたくなる理由のひとつとなることだろう。今般紹介したオパーリン仕上げのシルバーカラーモデルと、サンレイ仕上げのブルーラッカーモデルが用意されている。

ロレックススーパーコピー時計代引き「パーペチュアル 1908」
ロレックス「パーペチュアル 1908」Ref.52506
自動巻き(Cal.7140)。38石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約66時間。Ptケース(直径39mm、厚さ9.50mm)。50m防水。
 ロレックスが、2023年に全く新しいドレスウォッチコレクションとして発表した「パーペチュアル 1908」に、プラチナケースの新作が追加された。パーペチュアル 1908は、ロレックスの偉大な発明のひとつであるパーペチュアル(自動巻き)とブランドの誕生年である1908年に名前を由来している。ノンデイトに時分針とスモールセコンドという構成は、クラシカルなドレスウォッチの王道と言うべきもので、発表時には大きな話題となったことは記憶に新しい。

本作はプラチナケースに、ロレックスではプラチナモデルにのみ採用されるアイスブルー文字盤が組み合わされたモデルだ。文字盤にはライスグレインモチーフのギヨシェ装飾が施され、その意匠もクラシカルな雰囲気を強めている。ベゼルや裏蓋にはフルーティング装飾が与えられた点がロレックスらしいデザインであり、その凹凸によるきらめきが華やかさを添えている。

搭載されるムーブメントは、パーペチュアル 1908に合わせて発表された自動巻きのCal.7140である。シリコン製シロキシ・ヘアスプリングを採用し、パワーリザーブは約66時間と、現代的で実用性の高い仕上がりである。

パテック フィリップ「ゴールデン・エリプス」
パテック フィリップ 新作 ゴールデン・エリプス 5738/1
パテック フィリップ「ゴールデン・エリプス」Ref.5738/1
自動巻き(Cal.240)。27石。2万1600振動/時。パワーリザーブ約48時間。18KRGケース(縦39.5×横34.5mm、厚さ5.9mm)。3気圧防水。951万円(税込み)。
最新かつ卓越した技術を古典的なデザインに落とし込むことに長けているのがパテック フィリップだ。また、同社はさまざまなドレスウォッチをラインナップしていることでも知られる。今般取り上げるのは、「ゴールデン・エリプス」のブレスレットモデルだ。

本作は、ゴールデン・エリプスの中では大型のケースを持つRef.5738に追加された初めてのブレスレットモデルである。“黄金の長円”という名の通り、縦39.5×横34.5mm、時計仕上がり厚さ5.9mmの長円型のケースと、シンプルな時分針の構成はゴールデン・エリプスのアイコン。シンプルでエレガントな佇まいである。このシルエットを実現するのが、薄型ムーブメントのCal.240である。

組み合わされるブレスレットは完全新設計だ。外観はミラネーゼ風であるが構造は別物で、長さ調整が可能である点がトピックスである。剛性感がありながら、その質感の滑らかさは特筆すべきもので、薄型の仕立てと相まって優れた装着感が期待できる。

ショパール「L.U.C カリテ フルリエ」
ショパール L.U.C カリテ フルリエ
ショパール「L.U.C カリテ フルリエ」Ref.168631-3001
自動巻き(Cal.L.U.C 96.09-L)。29石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。ルーセントスティール™(直径39mm、厚さ8.92mm)。30m防水。300万3000円(税込み)。
薄い仕立てのドレスウォッチは繊細で、使用の際には、ユーザー側に相応の配慮が必要というのが長年の相場であった。そこに一石を投じたのが2005年に発表されたショパールの「L.U.C カリテ フルリエ」であった。本作は、その最新モデルとなる。

「カリテ フルリエ」は、ショパールやパルミジャーニ・フルリエなどが共同で定めた時計の品質基準である。その内容は非常に厳しいもので、単純な精度のみならず、耐衝撃、耐磁性、温湿度サイクル試験などの多彩な認定試験が定められている。L.U.C カリテ フルリエは、ラウンドケースに時分針とスモールセコンドといったクラシカルなドレスウォッチのフォーマットでありながら、その品質基準に合格するモデルなのだ。

そんなL.U.C カリテ フルリエの新作モデルは、初作のデザインから着想を得ており、文字盤上の放射状のラインで区切られたふたつの同心円によって時分表示を区別可能な“セクター”を特徴としている。そのほか、チャプターリングはサーキュラーサテン仕上げ、スモールセコンドダイアルは繊細なスネイル仕上げとなる。

この意匠に組み合わされるムーブメントはCal.L.U.C 96.09-Lであり、厚さ3.3mmながらマイクロローターによる自動巻きを備えつつ、積載式二重香箱を搭載してパワーリザーブ約65時間を備える。加えて、ムーブメントに施される仕上げは極めて高品質なもので、評価が非常に高い。

オメガ「パリ 2024 ブロンズ ゴールド エディション」
オメガ パリ 2024 ブロンズ ゴールド エディション
オメガ「パリ 2024 ブロンズ ゴールド エディション」Ref.522.92.39.21.99.001
手巻き(Cal.8926)。29石。2万5200振動/時。パワーリザーブ約72時間。ブロンズゴールドケース(直径39mm、厚さ11.7mm)。3気圧防水。184万8000円(税込み)。公式ホームページでは完売。
オメガは国際的なスポーツ大会であるオリンピックのオフィシャルタイムキーパーを務めており、それにちなんだモデルをリリースしてきた。本年に行われたパリ2024オリンピック&パラリンピックの開催に合わせて発表されたのが、「パリ 2024 ブロンズゴールド エディション」である。

デザインは1939年に製造されたオメガの腕時計からインスピレーションを得たものだ。当時のオメガはスポーツ計時の分野で貢献を始めた頃と重なり、本作はこの点に着目して企画されている。そんな本作の特徴は、ケースや文字盤に使用されている素材だ。39mmのケースは、オメガ独自の合金であるブロンズゴールド、文字盤は1%のゲルマニウムを混ぜて黒く変色しにくくしたAg925シルバー、時分秒針はオメガ独自の合金である18KセドナゴールドにブロンズゴールドのPVD加工を施して仕上げられたものだ。すなわち、オリンピックのメダルに使用される貴金属として象徴的な金銀銅が用いられている。

インスピレーション元となったモデルが手巻きムーブメントを搭載していたことから、本作に搭載するのも手巻き式のマスター クロノメーター認定ムーブメントのCal.8926である。ヴィンテージテイストを有しながら、現代基準で最高レベルの実用性を持つ点はオメガならではの魅力である。

タグ・ホイヤーの2025年発表モデルを、ラトラパンテ搭載

今回は、ラトラパンテ(スプリットセコンドクロノグラフ)を搭載させた「モナコ」によって、アヴァンギャルドへの回帰を見せたタグ・ホイヤーを取り上げる。

アヴァンギャルドに回帰した腕時計ラトラパンテ
タグ・ホイヤーの基幹コレクションの中でもクラシックな雰囲気を維持し続けてきた「モナコ」。もう一方のアイコンである「タグ・ホイヤー カレラ」が時代に合わせてケースデザインを一新させてきたのとは対照的に、モナコのデザインは不可侵なものだった。しかし2024年の新作で、同社はそこに手を入れた。ヴォーシェ・マニュファクチュール・フルリエのエボーシュをベースとする「タグ・ホイヤー モナコ スプリットセコンド クロノグラフ」では、ケースバックをサファイアクリスタルに刷新。ケース自体もエッジを効かせた新造形に進化を遂げている。ノンリミテッドだが、タグ・ホイヤー スーパーコピー時計代引き極小生産モデルで、年間20本程度(受注生産)となりそうだ。

タグ・ホイヤー モナコ スプリットセコンド クロノグラフ
タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー モナコ スプリットセコンド クロノグラフ」Ref.CBW2182.FC8339
ブランド初となる機械式の腕時計ラトラパンテ。エボーシュの地板とケースにTi素材を採用し、ムーブメント重量で約30g、時計全体でも約85gの軽量化を実現。トランスパレント化されたダイアルデザインも斬新だ。自動巻き(Cal.TH81-00)。3万6000振動/時。パワーリザーブ約65時間。Tiケース(縦41×横41mm、厚さ15.2mm)。30m防水。要価格問い合わせ。
今年のヒーローピースは「タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ」の新作で、ジャック・ホイヤーのお気に入りだったRef.7753SNがモチーフ。グラスボックスタイプのケース仕様で初のブレスレットモデルとなった。 

タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ
タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー カレラ クロノグラフ」Ref.CBS2216.BA0041
2024年のヒーローピース。ジャック・ホイヤーのお気に入りだったRef.7753SNをモチーフとするが復刻版ではなく、グラスボックス仕様のニューケースで再現。同仕様のケースでは初のブレスレットを採用する。自動巻き(Cal.TH20-00)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径39mm)。100m防水。93万5000円(税込み)。
タグ・ホイヤー カレラ

(左)タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー カレラ トゥールビヨン クロノグラフ」Ref.CBS5011.FC6566
1月のLVMHウォッチウィークで発表された自社製トゥールビヨンクロノグラフ搭載モデル。メタリックな質感を持つティールグリーンダイアルは、同時期に登場した「DATO」と同色。インダイアルは同色のアズール仕上げ。自動巻き(Cal.TH20-09)。2万8800振動/時。パワーリザーブ約65時間。SSケース(直径42mm)。100m防水。336万500円(税込み)。
(右)タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー カレラ スキッパー」Ref.CBS2241.FN8023
2023年にSSで復刻された「スキッパー」の18KRGモデル。1967年にイントレピッド号でアメリカズカップに優勝したクルーは「アクアスター」を着用。翌68年に発売された記念モデルがモチーフだ。自動巻き(Cal.TH20-06)。33石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。18KRGケース(直径39mm)。100m防水。302万5000円(税込み)。
タグ・ホイヤー アクアレーサー プロフェッショナル300 GMT
タグ・ホイヤー「タグ・ホイヤー アクアレーサー プロフェッショナル300 GMT」Ref.WBP5114.BA0013
新しいアクアレーサーは、ミドルケースのプロファイルを刷新した42mmケースを採用。ケース厚では12mm程度のボリュームがあるが、ラグのフォルムは特に薄く調整され、適切な装着感を実現している。自動巻き(Cal.TH31-03)。30石。2万8800振動/時。パワーリザーブ約80時間。SSケース(直径42mm)。300m防水。58万8500円(税込み)。

キャロル・カザピをインタビュー。「私たちは、再びオートオルロジュリーの世界に戻ってきた」
タグ・ホイヤーで辣腕を振るうキャロル・カザピ。「トゥールビヨンの女王」だった彼女は、今やモダンなオートオルロジュリーの旗手になろうとしている。今回タグ・ホイヤーがW&WGで発表したのは、モナコのラトラパンテ。機構もさることながら、価格も飛びぬけている。ベースになったのは、2023年のオンリーウォッチでお披露目されるはずだったモデル。しかし、それをそのまま量産するとは思ってもみなかった。

[タグ・ホイヤー/ムーブメントディレクター]Carole Kasapi(キャロル・カザピ)
1969年、フランス生まれ。ラ・ショー・ド・フォン時計学校を卒業後、1990年にコンセイユレイに入社。1992年からルノー・エ・パピに在籍。その後、カルティエ、ヴァン クリーフ&アーペルなどを含むリシュモン グループの設計責任者となる。2020年にはタグ・ホイヤーに移籍した。2021年にガイア賞を受賞。現在、筆者が最も尊敬するムーブメント設計者のひとり。
「ラトラパンテの計画は3年前に始まりました。というのも、オートオルロジュリーの世界に、良いコンプリケーションと共に戻ってこようと思ったからですね。そしてタグ・ホイヤーと言えばクロノグラフ」

しかしなぜ、あえてラトラパンテを選ぼうと思ったのか?

「不思議なことに、タグ・ホイヤーは腕時計のラトラパンテを作ってこなかったのです。これが唯一のものになるでしょう。ちなみにクォーツには存在していた。(アイルトン・セナ)が着けていた『S/el』ですね。でも機械式ではこれが初になる」

しかし、なぜヴォーシェのエボーシュをベースに、ラトラパンテを作ろうと思ったのか。タグ・ホイヤーにはキャリバー02 やTH20といった、優れた自社製ムーブメントが存在する。

「もっと深い理由があるのよ。私たちは高級時計のセグメントに戻ってこようと思った。であれば、品質は妥協したくないし、ベストなメーカーと働きたい。ノウハウもそうですね。結果として値段に反映された。でもコストは一切考えなかったのよ」

彼女の姿勢を示すのが、ムーブメントの装飾だ。機械的な仕上げを良しとするタグ・ホイヤーだが、今回は驚くほどの仕上げが施されている。しかし、あえて工業的にまとめてある。

「スイスのアータイムでムーブメントの装飾を行ったのです。パーツのひとつひとつに、30〜40時間をかけて手作業で磨き上げました」。担当したのは、同社のファブリス・デシャネルとステファン・マチュレル。超高級ブランドが頼む装飾メーカーに、あえて依頼したのもやはり、妥協したくないらだろう。「装飾に関して言うと、一番だと思いますよ」。彼女はあえてヴォーシェのエボーシュを選んだ理由に戻った。

「では私たちタグ・ホイヤーは、高級時計製造の世界で何をすべきなのか。作るべきは、スポーツシーンで使える高級時計だと思ったのです。ベースとなるムーブメントの振動数は5Hz(3万6000振動/時)で、緩急針のないフリースプラングテンプです。だからショックに強いし、等時性にも優れる。ムーブメントの受けと地板もチタン製だから軽い」

こういった試みは今回きりと思いきや、実は今後も用意されているようだ。「私たちはオートオルロジュリーの計画を考えています。それを担うのはモナコ、カレラ、そしてモンツァになります」。