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MOPにブラック・ハード・コーティングを掛け合わせたU1.S.Perlmutt.Sが登場。

MOPの文字盤に、ブラック・ハード・コーティングのケースを合わせた。僕には、それ以上の意味がこの時計に込められているように思えてならない。

Uシリーズ、Tシリーズをはじめとしたダイバーズウォッチも同ブランドの得意とするところだ。そのなかでも、Uシリーズ、特にU1はジンのダイバーズウォッチにおいて基本となるモデルである。時・分・秒に日付と表示面ではシンプルながら、防水性能は圧巻の1000m(100気圧)。第三者機関からの認定を受けたスペックはその道のプロにも信頼されており、“ジン特殊時計会社”の社名に恥じないものだ。過酷な環境で命を預けるに足るダイバーズのひとつ、それがU1なのだが、今回そのイメージにいい意味で一石を投じる新作が登場した。それが、美しいMOP(マザー・オブ・パール)ダイヤルにマットなブラック・ハード・コーティングを組み合わせた、U1.S.Perlmutt.Sだ。ダイヤルのMOP以外は、インデックスから針、ベゼルに至るまでブラックで統一されている。

ロレックス コピー基本的なスペックは従来のU1と大きく変わらない。ソリッドケースバックと4時位置のリューズはねじ込み式で、防水性能については船級・認証機関DNVによる耐圧保証を受けている。素材のベースはUボート・スチール。これはドイツが誇る最新鋭の潜水艦(Unterseeboot、水の下の船の意)の外殻に使用されている鋼鉄であり、海水に対してはもちろん、延性に富んでいるためひび割れに対しても高い耐性を有している。Uシリーズの“U”がこの素材にちなんだものだというのは、今更言うことでもないだろう。加えて今作では、Uボート・スチールにブラック・ハード・コーティングを施している。ジン独自の表面硬化技術であるテギメント加工をベースにPVDコーティングを行うことで、素材の内部まで着色層が浸透、外部からの衝撃による色剥がれを防いでくれる画期的なテクノロジーだ。特別新しい技術ではなく、過去にはU2、U50などほかのUシリーズでも採用された実績もあるが、U1においてMOPと組み合わせられたのは今回が初となる。

針とインデックス、ベゼル上の三角のマーカー部分にはスーパールミノバが塗布されており、本来のフィールドである水中においても高い視認性を発揮してくれることだろうと思う。ムーブメントには2万8800振動/時で動作し、約38時間のパワーリザーブを有するSW200-1を搭載。価格はケースと同素材のSSブレス仕様のモデルで71万5000円、シリコンベルト仕様のもので69万3000円(ともに税込)となっている。

話は少し逸れるが、今年のTime to Watchesで発表されたT50を覚えているだろうか。HODINKEEでもジェームズ・ステイシーがHands-Onで取り上げ、絶賛していたチタン製のダイバーズウォッチだ。同じく41mm径で500m防水のU50を想起させるシェイプながら、ジン 556でも見られるシャープなソード針や端正なバーインデックスを装備し、全体の色数を抑えることでグッと洗練された印象を生み出していた。僕はどちらかというとクラシカルでドレススタイルにも合わせられるインストゥルメント ウォッチ(そう、556や356.FLIEGERあたりだ)を愛してやまない一派であり、マッシブで真にプロユースの時計であるUシリーズやTシリーズには縁がないと思っていた側の人間なのだが、T50の発表はまさに衝撃だった。“ならでは”の機能美は維持しつつ、これまでにないプレミアムな美観を備えた同モデルは、ジンの新たなファン層を開拓するきっかけになったのではないだろうか。

そして今回のU1.S.Perlmutt.Sだ。個人的にこのモデルは、T50に連なるジンの戦略を象徴する1本だと考えている。

先述の通り、ブラック・ハード・コーティングはジンにとって新しい技術ではない。MOPとの掛け合わせも2021年にU50で実践済みだ。しかし2023年、ジンは44mm径のU1でこの組み合わせを再現した。そこには、U1におけるひとつ前のモデル、U1.Bでの成功も関係していると思う。同モデルは文字盤、シリコンストラップを落ち着いたブルーで表現しつつ、視認性を高めるための“赤”を最小限に抑えてデザインされていた。U1.Bのヒットを受け、続けざまにリリースされたU1.S.Perlmutt.S。ケースとストラップはもちろん、針やインデックスまでブラックで統一された今モデルには、何かしらの意図を感じてしまう。

MOPの色味は写真では明るいブルーに見えるが、実機ではもう少し落ち着いた印象を受けた。44mm径に14.7mmという厚さも相まってスーツには難しいだろうが、そのカラーパレットからカジュアルシックのハズし、カジュアルスタイルのクラスアップには抜群の効果を発揮してくるはずだ。むしろ旧来のジンを知る僕のようなファン層には、このサイズと存在感がしっくりとくる。

もちろん、“ジン特殊時計会社”の名の通り、同ブランドはプロユースのプロダクトを得意としている。だが、T50、U1.S.Perlmutt.Sの流れからは、時計ブランドとして更なる躍進を図るジンの野心が感じられるように思える。ただ、いちジンファンとして、そして丘サーファーならぬ街でジンを楽しむ丘ジンファンとしては、オーバースペックな計器をライフスタイルに自然に落とし込めるのは単純にありがたい。

Sinn U1.S.Perlmutt.S
 高機能なダイバーズウォッチとしてのスペックはそのままに、オールブラック×MOPというエレガンスが香るルックスに仕立てられた今回のU1。直近のジンによるダイバーズのプレミアム化の傾向を見るに、単なるU1のカラーバリエーションと片付けるには少々もったいない。U1.S.Perlmutt.Sは比較的大振り(44mm径)かつマッシブなフォルムをもって、T50でジンに注目した新規層に対して新たな提案を投げかける存在となるはずだ。次にこの流れに乗るのはどのモデルか? 個人的にはT50と同じチタンケースを持つT1か、GMT機能を備えたU2あたりが来ると推察しているが……、答え合わせができる日を楽しみに待ちたいと思う。

基本情報
ブランド: ジン(Sinn)
型番:U1.S.Perlmutt.S

直径: 44mm
厚み: 14.7mm
ケース素材:ブラック・ハード・コーティングを施したUボート・スチール
文字盤色: ブラックMOP
夜光: あり
防水性能: 1000m(100気圧)
ストラップ/ブレスレット: ブラック・ハード・コーティングを施したSSブレス、またはシリコンストラップ
追加情報: 特殊結合方式により固定された逆回転防止ベゼル

Sinn U1.S.Perlmutt.S
ねじ込み式のケースバックにはシリアルナンバーを刻印。

ムーブメント情報
キャリバー: SW200-1
機能: 時、分、秒、デイト表示
直径: 25.6mm
厚さ: 4.6mm
パワーリザーブ: 約38時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 26

価格 & 発売情報
価格: SSブレスモデル 71万5000円、シリコンベルトモデル 69万3000円(税込)
限定: 世界限定300本

今週のジュネーブ オークションセール全体をとおしてのハイライトを紹介した。

今回もEditor's Picksとしていくつかをお届けしていく。必ずしもトップロットというわけではないのだが(でも今週は何人かが高級品志向を持っていることが判明したため)どれも目が離せなかった。私たち3名、マーク・カウズラリッチ、リッチ・フォードン、そして自分(トニー・トライナ)は、現地のオークションに参加した。

ちなみに自分でスクロールしてチェックしたいという方のために、金曜日から月曜日までのライブオークションのカタログを掲載しておこう。クリスティーズ レアウォッチ、フィリップス ジュネーブ・ウォッチ・オークション、カルティエスーパーコピーサザビーズ インポータント ウォッチ、アンティコルム。以上だ。

プラスアルファを加えたパテック 永久カレンダー
オークションプレビューに参加する際のちょっとしたコツを紹介しよう。少し姿を見せたら、ちょっとランクの高い時計を見せるようリクエストしてみてほしい。トップロットは難しいが、現実離れしたアイテムが目白押しの時計オークションの世界では、例えば10万ドル(日本円で約1360万円)以下なら何でもいい(ただしあまりにもデリケートなものは不可だ)。そしてその時計を装着し続け、その後1時間ほどは腕に巻いていることすら“忘れるように”して、一生買えないかもしれない時計を身につけているという事実を静かに楽しむのだ。

パテックの3974 ミニッツリピーター。

私の場合(今週のクリスティーズのように)もしカタログにパテック 3970の永久カレンダー クロノグラフがあればいつもそれを選んでいる。複雑時計であり、おそらくパテック最後の傑作機となる永久カレンダー クロノグラフのリファレンスだが、36mmというサイズと長いステップが設けられたラグがよりヴィンテージ感を高めているように感じ、さらに小振りで頑丈な時計でもある。さらにこの個体が優れているのは、ホワイトゴールドのセカンドシリーズだからだ。実はWGはプラチナよりも珍しいとされている(セカンドシリーズの650本のうち、約80本がWG製だ)。クライアントにとっては、“せっかくパテックの永久カレンダー クロノグラフを貴重なWGで手に入れるのなら、いっそ思い切ってプラチナにしたほうがいいかもしれない”というような考え方だったのだろう。そのためプラチナに比べ、WGはどうしても数が少なくなってしまうのだ。

さらに私がまだ3970を手に巻いていたとき、クリスティーズでさらに希少なWGのパテック 3974 ミニッツリピーターを手に取って分析する仕草をして、すべてを手に入れたお金持ちのコレクターのコスプレをした。3970を手首につけてプレビューに足を運び、そして“ああ確かに、私はいつもタイミングを計ってうるう年かどうかを知るのが好きだ。でもチャイムが鳴らないのは残念だ!”と言うところを想像してみてほしい。そして3974の購入に進むのだ。パーペチュアルカレンダーであり、そして1989年から2013年のあいだに160本ほどしか製造されず、おそらくWGでつくられたものは12例にも満たないだろう(繰り返すが、プラチナよりもWGのほうが珍しいのだ。上記参照)。

確かにパテックは、現在でもこのようなコンプリケーションウォッチを製造しているが、これほどエレガントな時計はあるだろうか? 3970と似たようなルックスだが、こちらは3974のなかでも初期のものであり、非常に重要なディテールを備えている。というのも、この時計はケース職人の名匠ジャン-ピエール・ハグマン(Jean-Pierre Hagmann)氏がつくったもので、ラグ裏には彼が印したホールマークがはっきりと確認できる。

さらにフィリップスには、ロンドンのサーチ・ギャラリーで2015年に開催されたパテックのグランド・エキシビションを記念して生産された希少な“サーチ”3970もある。これらのサーチモデルはすべて、過去に生産が中止されたリファレンスの超限定生産品(5本以下と思われる)であり、ここ数年大きな注目を集めている。このブレゲ数字の“12”が付いた3970Pは最高の1本であり、100万スイスフランを超える可能性がある(編集注記:結果は57万1500スイスフラン/日本円で約8650万円 で落札)。

オスマン市場向けにつくられたブレゲ グラン&プチソヌリ ポケットウォッチ

懐中時計の話をすると目が点になるかもしれないが我慢してほしい。まず前提としてこれは厳密にはクロックウォッチである。グランド・エ・プティット・ソヌリ(grande et petite sonnerie)と呼ばれるもので、どのオークションウィークでもそう言及されるほど重要なものだが、それは氷山の一角にすぎない。インディ・ジョーンズの台詞を借りれば、“それは博物館にあるべきもののだ”(that belongs in a museum)。このシリアルナンバー1950はアブラアン-ルイ・ブレゲ自身の手によってつくられ、1808年5月にオスマン帝国大使ガリブ・エフェンディに届けられたもので、文字盤にはトルコ数字が記されている。ブレゲが実際に製作した時計というのは特に珍しく、オークションには“アポクリファル(嘘の、間違いのという意)”ブレゲが多く出品されている。

この時計のムーブメントに5つものゴングが備えられていると考えると、比較的小振りな時計だ(幸運にも私はこのゴングを聞くことができた。この時代に製造された時計にしては驚くほどクリアな音色を奏でた)。しかしこの時計が持つ魅力的な二重の来歴・技術的なことを別にしても、ケースはケースメーカーであるタヴァニエ社によるペアケースのカブリオレであり、内側のケースを反転させて文字盤を隠すことが可能で、余すところなくエナメル仕上げが施されたひとつの芸術品にもなる。これはブレゲがケースを複雑に装飾することを許可した、数少ない場所のひとつであるトルコエナメルの名作である。これらの時計のほとんどは博物館に所蔵されているため、このレベルのアイテムをコレクションに加えたいと考えている人にとって価格は問題にならないだろう。

ブレゲ数字の入ったパテック フィリップ Ref.1579

ラ・レゼルヴのフィリップス・テントのなかで、ひとつだけはっきりしたことがある。それは質の高いヴィンテージについてみんなが話題にしていたということだ。これはほとんどのオークションプレビューにもある程度当てはまることでもある。ここ十数年のオークションシーズンではモダンウォッチがロットの大部分を占めるようになったが、ヴィンテージは手に取ってみないと“わからない”ものだ。ヴィンテージ パテックは特にそうだ。今回のオークションで販売された最高のヴィンテージ パテックは、1953年に製造されたRef.1579 クロノグラフであるロット22だと思う。この文章やロットタイトルを読んでもピンとこないかもしれない。

フィリップスによるとこの時計は、1579のケースシェイプに“スパイダーラグ”とエナメル加工のブレゲ数字を組み合わせたモデルであり、“おそらく唯一無二の存在”であるとのことだ。このリファレンスは1943年から1964年まで約500本が製造され、ふたつの異なるダイヤルタイプによって、ファーストシリーズの1579と、セカンドシリーズの1579という区別がされているそうだ。これらの文字盤はどれもがこの時計に似ておらず、パテックのエキスパートは、フィリップスがこのオークションで提供している文字盤こそ、この時計のオリジナルであるということを確認している。

ほぼ間違いなくユニークピースかどうかは別として、GWAXVII(ジュネーブ・ウォッチ・オークション 17)のロット22は存在感がある。ショールーム内にはショーケースを囲むように展示台が配置され、非常にシンプルな構成になっている。ケースを覗くとロット22がそこにあることはほとんどない。いつも十数台の展示台から、もっとよく見たいとリクエストされていた。ケースコンディションは(シェイプが)鮮明で、ファセット加工されたラグにははっきりとしたラインが残っている。また全体的に温かみのあるパティーナがあるのも見受けられた。写真ではピンクゴールドに近い色合いだが、自然光でははっきりとした黄色に見える。この状態のあたたかみは、まさに手つかずのヴィンテージからしか得られない。もちろんダイヤルはさらにいいものだ。この時計は私が今まで見たこの時代のハードエナメル仕上げのパテックのなかで最もいいコンディションだった(ほかとは比べものにならないほどに)。誇らしげなブレゲ数字、大きめのインダイヤル、そして外側に記された詳しいクロノグラフスケールを組み合わせるなど、パテックは目立つための理想的なステージを作り出しているのだ。