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レジェップ・レジェピから始まった5本限定シリーズの第2弾であるこの時計は、

タイのプーケットにて、ジャン・アルノー(Jean Arnaul)氏指揮のもと、ルイ・ヴィトンは現代を代表する独立時計師たちとの5部構成のコラボレーションの第2弾となる時計を発表した。今回ルイ・ヴィトンがタッグを組んだのはカリ・ヴティライネンで、ウォッチメイキングの技術と芸術性を融合させた作品に仕上がっている。その名もLVKV-02 GMR 6。ダイレクトインパルス式のデュアル脱進機を備えたGMTであり、ラ・ファブリク・デ・アール ルイ・ヴィトン(La Fabrique des Arts Louis Vuitton)の職人によるミニアチュール彩絵エナメル装飾と、ヴティライネンの工房による手仕上げのギヨシェ装飾が特徴だ。ケース素材にはタンタルとプラチナを組み合わせている。ブランドはこの時計を、シンプルにLVoutilainen(ルヴティライネン)と呼んでいる。

LV x Kari Voutilainen Watch
ルイ・ヴィトンとレジェップ・レジェピによるLVRR-01 クロノグラフ ア ソヌリでこのシリーズが幕を開けてから、1年半が経過した。今年1月、LVMH Watch Weekに際し、再編成されたルイ・ヴィトンが本格的にハイエンドウォッチブランドとしての地位を確立した瞬間だと述べたばかりである。しかしラ・ファブリク・デュ・タン(LFdT)は、レジェピとのコラボレーションに限らず複雑なオートマトンウォッチなどを通じて、すでに長きにわたりハイエンドな時計製造を実践してきた。

LVRR-01 Chronograph
こちらは、スーパーコピー時計ブランドLVRR-01の発表時にお届けしたレポートから引用した。

 LVRR-01 クロノグラフ ア ソヌリはきわめて多機能かつ特異なハイブリッドモデルであった。限定本数は10本、価格は45万スイスフラン(日本円で約7600万円)。セミスケルトン仕様で両面に表示を持ち、トゥールビヨンによって調速されるソヌリ・オ・パッサージュ・デ・ミニュット・ドゥ・クロノグラフ(拙いフランス語が正しければ)、つまりクロノグラフ作動中に経過する各分をチャイムで知らせる機構を備えている。ムーブメントはツインバレルで駆動し、ケースはジャン-ピエール・ハグマン(Jean-Pierre Hagmann)が設計したタンブールに着想を得た39.5mm×11.9mmサイズを採用している。表側にはスモークサファイアを用いた表示が配されており、これはブランドのスピン・タイムモデルからインスピレーションを得たもの。一方で裏側は、より伝統的なディスプレイでクロノグラフ機能が表示される。

Jean Arnault
The trunk
The trunk
 今回発表されたウォッチコンセプトは、伝説的な時計師の技術を最大限に引き出すという点で変わっていない。しかしこの1年半で、ルイ・ヴィトンのラ・ファブリク・デュ・タンを取り巻く環境には大きな変化があった。再始動したダニエル・ロートとジェラルド・ジェンタのブランドはすでに本格的に動き出しており、タンブールもスティール、貴金属、セラミックといった多彩な素材を用いた完全なコレクションラインへと進化した。そこにはタンブール コンバージェンスや、きわめて複雑なタンブール・タイコ・スピン・タイムといったサブカテゴリも含まれる。ルイ・ヴィトン全体の売上における時計部門の比率はごくわずかであるため、ジャン・アルノー氏はリスクを取り、大胆な挑戦を行う自由を手にしているのだ。

LVoutilainen
 今回のコラボレーション相手は、私が時計作品のみならずそのビジネス感覚や人柄においても深く敬愛している時計師、カリ・ヴティライネン(Kari Voutilainen)氏である。彼は年間製造本数が100本未満という小規模な独立時計師でありながら、ケースやダイヤルなども手がける複数の会社を擁するブランドへと成長させてきた。昨年にはGPHGでの受賞や、自身初のトゥールビヨンへの20周年オマージュ作品の発表など華々しい活躍を見せたばかりだが、2025年はさらに飛躍の年となる可能性がある。というのもヴティライネン氏が共同CEOを務める人気ブランド、ウルバン・ヤーゲンセンの再始動が今年半ばに予定されているからだ。

 ヴティライネン氏は、伝統的でありながら卓越したウォッチメイキング技術で知られる存在となっている。彼の時計は現在でもやや厚みのある地板やブリッジを採用しており、これによりほかメーカーが接着剤を用いるような箇所でもすべてネジでパーツを固定できる。これによって、数百年先まで整備が可能な時計を実現しているのだ。また、傘下企業であるコンブレマイン社(Comblémine SA)を通じて、ダイヤル製作においても確固たる地位を築いており、数多くのブランドや独立時計師たちにダイヤルを供給する柱的存在となっている。その一方で、KV20iのようにダイヤル自体を廃した作品も手がけており、表裏反転という“インバース/リバース”コンセプトも、彼のブランドにおけるもうひとつの柱となっている。

Kari Voutilainen KV20i
 ヴティライネン氏が複雑機構の真の達人であるという事実を、時計愛好家の新参者たちはまだ十分に理解していないのではないかと思う。ミニッツリピーターパーペチュアルカレンダーのような1点物や、わずか数本しか存在しないミニッツリピーターGMTなど、まさに夢のような時計を手がけてきたのだ。ルイ・ヴィトンとの次なるコラボレーションがヴティライネンだと聞いたとき、平凡な時計になるはずがないとは思っていた。しかし自分が見落としていた最大の要素は、芸術性だった。

 LVKV-02 GMR 6はその名が示すとおり、本質的にはGMTウォッチである(“GM”がそれを示している)。一見するとシンプルに思えるかもしれないが、それはカリ・ヴティライネンが手がけるGMTに限っての話ではない。今回のモデルは、ルイ・ヴィトンのトランク製造の歴史(世界を旅する人々のためのラゲージ)へのオマージュというコンセプトに基づいている。“R”は12時位置に配されたレトログラード式パワーリザーブインジケーターを意味し、“6”はダイヤル上にある24時間表示のGMTインダイヤルの位置(6時)を指している。

LV x Kari Voutilainen Watch
 GMTディスクは24時間で1回転し、着用者の“ホームタイム”を表示するように設定される。一方で時針は、旅先でのローカルタイムを示すために独立して調整可能であり、これはリューズを押すことで簡単に操作できる仕組みとなっている(この操作により巻き芯とGMT機構が連動して作動する)。カリ・ヴティライネンはこれまでにも、GMRやGMT-6といったGMT機能搭載モデルを手がけてきたが、それらはGMTインダイヤルのほうを調整する仕様であった。今回のモデルではその方式が逆転しており、時針を調整する新たなバリエーションとなっている。これは完全新設計のキャリバーを搭載したレジェップ・レジェピ LVRR-01とは対照的だ。今回のLVKV-02 GMR 6におけるコストの大部分は、ラ・ファブリク・デュ・タンとヴティライネン氏による手仕事の装飾工芸にある。とはいえまずは時計全体の構成を見ていこう。

 GMTウォッチにふさわしく、本作には“エスカル”ケース(フランス語で寄港地、経由地の意)が採用されている。ケース素材はタンタルで、サイズは40.5mm×12.54mm。ベゼル、裏蓋、ラグ、リューズ、バックルにはプラチナが用いられている。各ラグの仕上げには約1時間を要し、まずはカブロナージュ(紙やすりをスティックにしたもの)によって整形し、そのあとポリッシュとエッジ出し(研ぎ)が行われる。さらにタンタル製ケースは手作業によるサテン仕上げで、これに追加で4時間がかかる。裏蓋には“Louis cruises with Kari(ルイはカリと旅をする)”というフレーズが刻まれており、この彫刻には12時間を要するという。この刻印は独立時計師との本シリーズにおける共通タイトルとなっている。

LV x Kari Voutilainen Watch
LV x Kari Voutilainen Watch
LV x Kari Voutilainen Watch
 リューズボタンによるGMTという機能的な特徴に加え、このムーブメントはほかのヴティライネン作品と同様に、高度に洗練された技術仕様を備えている。2011年以降ヴティライネン氏が採用しているように、本作にも大型のテンプと、外側にフィリップスオーバーコイル、内側にグロスマンカーブを持つヒゲゼンマイが用いられている。これによりヒゲゼンマイの内側と外側の曲率に等しい張力を与えることができ、最高レベルの精度を実現している。さらにこの時計ではふたつの脱進輪が、止め石を介して直接テンプにインパルスを与えるダイレクトインパルス方式が採用されている。これはスイスレバー脱進機よりも効率的かつ安定的に動作するよう設計されており、1時間あたり1万8000振動/時で作動、パワーリザーブは約65時間に向上している。地板とブリッジにはジャーマンシルバー(洋銀)が使われており、ムーブメントを構成する254個すべてのパーツが極限までていねいに仕上げられている。

LV x Kari Voutilainen Watch
LV x Kari Voutilainen Watch
LV x Kari Voutilainen Watch
 ムーブメント側(ヴティライネン作品において常に個人的なお気に入りポイントのひとつ)はダイヤル側への流れとしても絶好の導入部である。なぜなら前面と背面をつなぐ、精緻なエナメル装飾がそこに共通して存在しているからだ。香箱にはラ・ファブリク・デ・アール ルイ・ヴィトン(ラ・ファブリク・デュ・タンのメティエ・ダール部門)所属の職人マリナ・ボッシー(Maryna Bossy)氏による多色のミニアチュール彩絵が施されている。素材はホワイトゴールド製のラチェットアップリケで、27色を描くのに16時間、焼成は5回に分けて行い、合計8時間にもおよぶ。

LV x Kari Voutilainen Watch
 ダイヤル正面には、ルイ・ヴィトンとカリ・ヴティライネンという両ブランドのダイヤル製作アトリエが持つ最高峰の技術が、ほぼすべて投入されている。マリナ・ボッシー氏はミニアチュール彩絵とダイヤモンドポリッシュが施されたアワーサークルを担当。デザインは古代のステンドグラスに着想を得たもので、28色を用い、1本あたり32時間をかけて描かれている。ゴールド製のダイヤル中央にはヴティライネン氏の工房による手仕上げのギヨシェ装飾が施されており、これはルイ・ヴィトンの“ダミエ”モチーフへのオマージュである。使用されたのは18世紀にさかのぼるギヨシェ機械で、ヴティライネン氏によれば完成までに4日間を要したという。

LV x Kari Voutilainen Watch
 ヴティライネン氏のアトリエはまた、GMTインダイヤルに配されたデイ・ナイト表示用の太陽と月のモチーフも手がけている。このインダイヤルは手彫りによる装飾が施されており、ルイ・ヴィトンを象徴するサフランとブルーのカラースキームで彩られている。さらに微妙なグラデーションのなかには、ルイ・ヴィトンのモノグラム・フラワーのシェイプがさりげなく隠されている。最後の“ルイ・ヴィトンらしい仕上げ”として、ブランドはダイヤルとムーブメントの両方にLVロゴとヴティライネン氏の姓の頭文字“K”を組み合わせたモノグラムを配している。LVRR-01と同様に、各時計には特注のルイ・ヴィトン製トラベルトランクが付属し、ダイヤルのモチーフやシリアルナンバー、そして“Louis cruises with Kari”のフレーズが、ルイ・ヴィトンの職人によってハンドペイントされている。

LV x Kari Voutilainen Watch
LV x Kari Voutilainen Watch
LV x Kari Voutilainen Watch
 LVKV-02 GMR 6は5本限定(加えてプロトタイプが2本)で、価格は55万ユーロ(日本円で約8900万円)。これはレジェピとのコラボであるLVRR-01より高額だが、製造本数はその半分となっている。レジェピとのコラボレーション第1号機は現在、最終的な品質チェックの段階にあり、今後10カ月にわたって月1本ペースで納品される予定である。一方でLVKV-02に関しては、すべての個体がすでに製造済みであり、すぐにクライアントへの引き渡しが可能となっている。

Raul Pages Watch
ラウル・パジェスのレギュラトゥール・ア・デタントRP1(左)とソバリー・オニキス(右)。ソバリー・オニキスは10本限定で製作された。こちらの写真は2022年に掲載したパジェス特集記事より抜粋したもの。Photo by James Kong/@waitlisted.

 カリ・ヴティライネンは、ルイ・ヴィトン ウォッチ プライズ フォー インディペンデント クリエイティブズの審査委員会メンバーを務めている。このコラボレーションによる収益は、独立時計製造の支援および同賞の運営資金として充てられるそうだ。昨年の受賞者はラウル・パジェス(Raùl Pagès)氏で、彼はルイ・ヴィトンのラ・ファブリク・デュ・タンによる1年間のメンタープログラムと金銭的賞与を受け取った。ジャン・アルノー氏によるとこれらのコラボレーション企画の根本的な目的は、この賞を支援することにあるという。

 ある意味自分でも信じられないのだが、次なるコラボレーションの予想として、“マスターピース”シリーズの新作や、GMTリピーターのインバースモデルなどを挙げていながら、いま思えばあまりにも自然で明白だったこの展開を見逃していた。ヴティライネン氏は以前から、日本人アーティスト・北村辰夫氏とたびたびコラボレーションを行っており、エナメル技法を駆使した傑出した作品を数多く生み出してきた。そのなかには2022年のGPHGにてアーティスティック クラフト部門を受賞したジーク ワールドタイマーや、ムーブメント側にエナメル装飾を施したヒスイといった名作も含まれている。

 “ただの綺麗なダイヤルにしては高すぎる”という声があるかもしれないし、その指摘が間違っているとは言えない。ただもっと大きな視点で捉える価値がある。ヴティライネン氏に、“4層構造で繊細かつ手間のかかるダイヤルを、シャネルJ12スーパーコピーふたつのアトリエのアーティストたちで共同製作するというプロセスはどのようなものだったか?”と尋ねたところ、彼は眉を上げ、唇からため息交じりの息を少し漏らした。というのも各パーツを輸送したり、組み合わせたりするたびに、何かがうまくいかなくなる可能性がつきまとうからだ。最終的に完成した5枚のダイヤルを仕上げるために、どれほどの失敗があったのか...その歩留まりについては誰も教えてくれなかったし、自分も知りたいとは思わなかった。

Louis Vuitton Voutilainen
 この時計には、ルイ・ヴィトンが得意とする遊び心が随所に宿っていると感じる。もちろん、遊び心と55万ユーロ(日本円で約8900万円)という価格は通常なかなか結びつかないものだが、それでもこの時計を手にするであろう人々にとっては多くの楽しみを見出せる一作であるに違いない。

 ジャン・アルノー氏率いるラ・ファブリク・デュ・タン ルイ・ヴィトンのチームは、このシリーズの最初の2作で、すでに極めて高い基準を打ち立ててしまった。今後誰が続くのか、平均50万ドル(日本円で約7500万円)の価格帯を維持できるだけのスター性を持つ人物を想像するのは難しいが、頭のなかにはいくつかの有力な名前が浮かんでいる。願わくば、次の発表まであと1年ほどで済むことを期待したい。

ブランパンのハイエンドウォッチが重要な役割を果たす

この野心あふれるポストアポカリプスのスリラー映画にて、ブランパンのハイエンドモデルが技術の粋を凝らしたタイムピースとして、そして物語の鍵を握る神秘的なアーティファクトとして強烈な存在感を放っている。

「ロスト・ランドを知っている案内人を探しているの。とてつもない力を秘めた宝を見つけるために」。 『イン・ザ・ロスト・ランズ(原題:In The Lost Lands、なお日本での公開は未定)』の予告編のなかで、このセリフとともに、ほんの一瞬、霧に包まれた幻想的な時計の姿が映る。この時点でHODINKEEの読者なら、思わず一時停止ボタンを押すに違いない。もしその時計がブランパン ヴィルレのオープンワークモデルだと気づいたなら、その慧眼に10点を贈りたい。このセリフを発しているのは、魅力あふれるミラ・ジョヴォヴィッチ(Milla Jovovich)。そこから2分19秒にわたる、濃密なアクション映画の世界が幕を開ける。

パテックフィリップスーパーコピー 代引き予告編に登場するキャッチコピーが語るのは、とてつもない魔力を持ち、人を狼男に変身させるアーティファクトを求めてロスト・ランドを旅する魔女の物語だ。火を噴く2丁の拳銃を手に、ドクロに膝まで埋まりながら立つデイヴ・バウティスタ。その背後にはミラ・ジョヴォヴィッチの姿...そんなポスター画像とあわせて見れば、本作がポール・W・S・アンダーソン(Paul W.S. Anderson)監督によるアドレナリン満載のアクション映画であることが期待される。アンダーソンは『エイリアンVSプレデター(原題:Alien vs. Predator)』や大ヒットした『バイオハザード(原題:Resident Evil)』シリーズなどで知られる、多作なアクション映画監督だ。だがきわめて複雑なブランパンのヴィルレが、ジョージ・R・R・マーティン(George R.R. Martin)の終末世界にどうして登場したのか? その意外性には驚かされる。

Blancpain "In The Lost Lands"
Image credit Dennis Berardi / Herne Hill.

裏話

短い予告編を見れば、ブランパン ヴィルレ カルーセル レペティション ミニッツ クロノグラフ フライバックが魔法の護符として登場するという、意外で入念に選ばれたチョイスに驚かされるかもしれない。この時計がなぜ映画に採用されたのか、その理由をポール・W・S・アンダーソン監督と共同プロデューサーのデニス・ベラルディ(Dennis Beradi)に聞いた。

ブランパンの時計をキャスティングした理由について、アンダーソン監督はこう語る。「俳優を選ぶように、役にふさわしい時計を選んだんです。プロデューサーのジェレミー・ボルト(Jeremy Bolt)は筋金入りの時計愛好家で、時代を超越した魔法のような雰囲気のある時計の写真をこれでもかというほど送ってくれました。この映画はポストアポカリプスの世界が舞台ですが、かつての世界から残ったモノたちは、神秘的な価値を帯びて非常に貴重な存在になっています。人々がもう時計を身につけなくなり、大聖堂の鐘の音で時を知るという中世的な世界において、それでもそこにあるタイムピースなのです」

Blancpain "In The Lost Lands"
Image credit: Vertical Entertainment for In The Lost Lands and Blancpain.

ポールはこう続ける。「ブランパンを見つけたとき、それが理にかなっていると思ったんです。世界最古の時計ブランドであり、アポカリプス後の世界で生き残った数少ないタイムピースのひとつですから。ブランパンは時の始まりに存在し、時代の終焉においてもなお時を告げている。そういう意味でも、この作品のテーマにぴったりだったんです」

映画やレッドカーペットでよく見かける時計とは違い、これは広告のためのプロダクトプレイスメント(広告手法のひとつ)ではなかった。「ブランパンは私たちを信頼してくれましたし、私たちがブランドとその精神をきちんと理解していることを認めてくれました。ですから、こちらの思いとおりに映画に登場させることができ、芸術的なビジョンが商業的な縛りに損なわれることはなかったんです。その点で、決まったルールは何もなく、私たちにとって理想的なパートナーシップでした」とポールは語る。

デジタル化の課題

7488万8000円(税込)というブランパン ヴィルレ カルーセル レペティション ミニッツ クロノグラフ フライバックは、マイクロエンジニアリングの粋を極めた傑作だ。登場シーンは多くないが、ポールはこの時計を“時計界のトム・クルーズ”と呼んでいる。専属の警備がついていたほどで、その存在感はまさにスター級だった。共同プロデューサーのデニス・ベラディによれば、このきわめて複雑な時計をデジタル化するには数々の困難があったという。

「ブランパンの製造図面は機密扱いで、通常の設計図を使うことはできませんでした。そこでブランパンが、実物のカルーセル レペティションをスキャンさせてくれたんですが、通常のスキャナーにマクロ仕様の改良を加えて対応しました。解像度は通常の3倍、1画像あたり約5万ピクセルで、300枚以上を撮影。非常に繊細なテクスチャーを再現するために、ひたすら細心の注意を払いながら取り組みました。時計内部で光がどう反射し、動くのか。その表現には照明の研究も必要でありアニメーションにおいても、ポールが描く“空中で回転しながら動く時計”のイメージを忠実に再現するために尽力しました。このプロジェクトは、ただの映像制作ではなくまさにひとつの使命でした。私たちはこの時計をリスペクトし、誰にも“デジタルに見えた”と思われたくなかった。フォトリアルに見えることが絶対条件でした。そして、それは実現できたと思います。満足いく完成形に至るまでおよそ5カ月かかりました」

Blancpain "In The Lost Lands"
Image credit Dennis Berardi / Herne Hill.

Blancpain "In The Lost Lands"
Image credit Dennis Berardi / Herne Hill.

Blancpain "In The Lost Lands"
Image credit Dennis Berardi / Herne Hill.

これがどれほどの手間だったかをお伝えしよう。ポール・W・S・アンダーソン監督は、ブランパンのCGIによるメインショットのひとつに、女優のミラ・ジョヴォヴィッチも登場させたかったと語っている。「予告編に、雨のなか時計がこちらに向かって転がり落ちてくるショットがありますよね。あれこそデニスが5カ月かけて制作したブランパンのデジタルモデルです。そのカットの制作も終盤になったころ、私は“背景にミラを入れよう”と思いついたんです。でも彼女の映像素材がなかったので、デニスがCGIでミラの姿を再現することになりました。それにかかったのはおよそ1週間。つまり映画スターは1週間、時計は5カ月ということですね」

ブランパン ヴィルレ カルーセル レペティション ミニッツ クロノグラフ フライバック

ブランパンコレクションのなかでも、ヴィルレのラインはとりわけ伝統的なリファレンスがそろっており、そのルーツは19世紀の懐中時計にまでさかのぼる。なかでもカルーセルRMCF(レペティション ミニッツ クロノグラフ フライバック)は、45mmのケースに語るべき魅力を多く詰め込んだ1本だ。ただし厚さ17.8mmとはいえ、デイヴ・バウティスタ(Dave Bautista)の筋骨隆々の手首に乗せたら、まるで華奢なドレスウォッチに見えてしまうかもしれない。もっとも、これは毎日のローテーションでつけるような時計ではない。だからこそ日々の装着感はさほど重要ではないのだ。なにしろ価格は約7500万円。この時計の持ち主であれば、おそらく左袖のカフだけ径を広げた仕立てのスーツを用意しているだろう。

Blancpain "In The Lost Lands"
Image credit Dennis Berardi / Herne Hill.

技術面で見れば、このブランパンは同ブランドのなかでも製造難度の高いモデルのひとつであり、10年以上にわたってその最上級ラインに君臨してきた。私の知る限り、これほど複雑な機能を組み合わせたモデルをほかのブランドは製造しておらず、なかでもトゥールビヨンのように構成されたカルーセルはきわめて希少だ。カルーセルもトゥールビヨンと同様に重力の影響を打ち消すために発明されたが、トゥールビヨンがひとつの動力でケージと脱進機を動かすのに対し、カルーセルではそれぞれに別の動力源が使われている。6時位置で舞うこの“プリマ・バレリーナ”は、ブランパンの魅力のほんの一部にすぎない。カルーセルRMCFには、フライバッククロノグラフ用の心地よい楕円形プッシャー、愛嬌ある赤い先端のクロノ針、そして8時30分位置の控えめなスライダーで作動するミニッツリピーターが奏でる音の魔法までもが備わっているのだ。

グラン・フー・エナメルの柔らかな光沢と、シャープなローマ数字が配された広いアウターリングに時間が表示され、センターのオープンワークから覗く精緻なメカニズムをクラシカルな様式美が包み込む。我々の多くにとって、45mmものレッドゴールドの塊は平均的な手首にはやや大振りに感じられるかもしれない。しかしこの時計が放つ圧巻の存在感にはそれだけの価値がある。ブランパンの時計師とフィニッシャーたちの手腕は、スケルトン仕様の裏蓋をとおしてさらに明らかになる。543個のパーツからなるCal.2358の厚みや立体構造を、そこからじっくりと感じ取ることができるだろう。ローターの下には段差を設けたブリッジが幾層にも組まれ、そのすべてに彫り込まれたサンレイパターンのギヨシェが、内部に潜む複雑さをいっそう際立たせている。

Blancpain
Image credit: Blancpain.

時計が持つタリスマン的な力

ブランパン ヴィルレ カルーセル レペティション ミニッツ クロノグラフ フライバックに宿る伝統的な職人技は、一見するとポストアポカリプスのアクション映画とは相容れないように見える。だが、その“お守り”のような存在感は物語のなかに自然と溶け込み、時計がもたらすより深い意味を際立たせている。この作品の前提にあるのは、ある種の“グレイルウォッチ”が我々の心をどれほど強く引きつけるか、そして幸運な数人にしか味わえない魔法のような体験が、そこに宿っているということ。何百時間にもおよぶ職人技の結晶に引かれる人もいれば、代々受け継がれた時計に宿る思いに心動かされる人もいるだろう。時計は、単に時を刻む以上の存在であり、深い感情を映し出す“タリスマン”なのだ。

Talking to the director and producer of 'In The Lost Lands,' I draw parallels to the pursuit of grail watches and ask Paul W.S. Anderson how Blancpain's movie role touches on this: "This is a Quest movie. It's about Milla and Dave's characters, a witch an
Image credit: Vertical Entertainment for In The Lost Lands.

パテックフィリップ時計コピー 代引き映画『イン・ザ・ロスト・ランズ』の監督・プロデューサーを務めたポール・W・S・アンダーソンと話していると、ふと“グレイルウォッチ”を追い求める旅と映画のテーマが重なって見えた。そこで、ブランパンの時計がこの映画にどう関わっているのかを尋ねた。「これは探求の物語なんです。ミラとデイヴが演じる魔女と狩人が、失われた土地へと旅に出る。そしてその旅に、時計は欠かせない存在となります。ジョージ・R・R・マーティンはこれを“大人のためのおとぎ話”として書きました。でもそれはディズニーのような美しいものではなくて、つま先が切り落とされるような、グリム兄弟の『シンデレラ(原題:Cinderella)』に近いのです。原作にはダークな側面がありながら、どこか神話的で、おとぎ話のような世界観がある。そのなかに、この時計は完璧に溶け込んだと思いました」。そう語ると、ポールはZoom越しにゆっくりとうなずき、通話は静かに終了した。

チューダーは時計ファンの期待に応える形で新作を次々と発表した。

ブラックベイシリーズの進化、ペラゴスの新展開、さらには限定モデルのリリースなど、ブランドは多角的なアプローチを続けている。

では2025年はどうなるのか? 過去のリリース傾向を考えればある程度の方向性は見えてくる。しかし、チューダーは(姉妹ブランド同様)いつだって私たちの予想の斜め上を行く。新しいクロノグラフ、さらなる素材の進化、そして完全に予想外のサプライズモデル...今年もまた、時計界に大きな話題を提供してくれるはずだ。

例えば2024年のブラックベイ 58 GMTのように、チューダースーパーコピー 優良サイトは時計好きの“夢”を実現してくれるブランドだ。だからこそ2025年もまた、驚きと興奮をもたらしてくれると信じたい。どんなモデルが発表されるのか、ワクワクしながら予想してみよう。

マスター クロノメーター認定モデルの拡充

オメガと共同で、腕時計の新しい認証規格を開発したスイス連邦計量・認定局(METAS)。同機関の認証を受けた、チューダー初の腕時計、ブラックベイ セラミックが誕生してから4年が経った。そして2023年、チューダーの屋台骨ともいえるブラックベイシリーズの旗艦モデル、ブラックベイ 41mmがマスタークロノメーター認定を取得した。それに続くように、ブラックベイ 58 GMTとペラゴス FXD GMTもMETAS認定を受けた。近年、チューダーが力を入れているのがムーブメントの高性能化なのだが逆に言ってしまうと、現在METAS認定済みのモデルはこの4つのみ。この流れを汲んでほかのブラックベイ 58やブラックベイ GMTにも、METAS認定の波が広がる可能性は高い。この拡充は、今年確実に来るのではないかと予想している。

ブラックベイのGMTベゼルやダイヤルのカラーバリエーション

Photoshopの力で、ブラックベイ 58 GMTを黒×青ツートンにしてみた。本当はダイヤルのギルトも白にしたかったが...力不足だった。

次に確度が高いと思っているのは、GMTベゼルやダイヤル、ケースの新色だ。GMTモデルは現状、ブラックベイ GMTのペプシ、ブラックベイ 58 GMTのコーク、ブラックベイ GMT S&Gのルートビア、そしてワントーンのブラックとステンレススティールソリッドの計5タイプ。それに続く新たなカラーバリエーションが登場すれば、これも大きなトピックになりそうだ(ブラックダイヤルで黒×青のバットマンとか)。そのほか、ブラックベイ セラミックはいまだフルブラックのみの展開となっており、まだまだ可能性が広がりそう。たとえばホワイトセラミックやグレーセラミックのバージョンが出たら、間違いなく話題になるはず。個人的にも、ブラック一色だった展開にチューダーがどんなふうに新しいニュアンスを加えるのか、考えるだけで楽しくなってくる。そして2023年に発表されたブラックベイ 54もいまだブラックダイヤルのみの展開となっており、新色が仲間入りするだろう(私は無難にブルーが来ると予想している)。

ペラゴスの回帰と進化

ペラゴス 39とペラゴス FXD クロノ“サイクリング エディション”のキメラ。

ペラゴスはチタン製の本格ダイバーとして培った路線を軸に、さらなる派生モデルが考えられる。特にペラゴス クロノグラフが登場する可能性は高い。すでにペラゴス FXD クロノ“サイクリング”が存在するため、このモデルが基本として素材のチタンでクロノグラフ版を製作するのは自然な流れだ。なお上の写真は、ブラックダイヤルのペラゴス 39に、ペラゴス FXD クロノ“サイクリング エディション”の顔を合成した、幻のペラゴス クロノグラフモデル。ブレスレットやタキメーターの質感や仕上げに注目して欲しい。こうしたディテールを変えた新作が登場する可能性も十分考えられる。

小型化の波とファンの長らくの要望(特にブルーペラゴス 39)

ペラゴス 39をブルー仕様に! 既存の42mmブルーペラゴスは6時位置の文字がすべて白いが、39mmのブラックでは“PELAGOS”の文字が赤くなっており今回はそちらを踏襲した。

チューダーは大胆な実験的モデル(ピンクやフラミンゴブルーダイヤルなど)を投入しつつ、ファンの声をしっかりキャッチしているように思う。それを踏まえたうえで、“○○が出たら欲しい”といったネット上で長く要望が出ているテーマは、小振りのGMTやペラゴス 39のブルーモデルなどだ。チューダーはこうしたコミュニティ動向を無視せず、新作発表の場でサプライズを用意してくる可能性がある。​個人的には、そろそろ青いペラゴス 39が来てもおかしくないと思うが...小型GMTモデルのほうがまだ現実的かもしれない。というのも、姉妹ブランドのロレックスとは異なる方向性を打ち出すなら、小型GMTのほうがエクスプローラー IIとはまた違った選択肢になるからだ。

ノースフラッグの復刻・記念モデル

最後に、過去モデルのアニバーサリーイヤーに合わせた復刻リリースという望みもある。2025年は、チューダー初の自社製ムーブメント搭載モデルであるノースフラッグの発表10周年にあたる。ノースフラッグは2015年のバーゼルワールドで発表された現代的スポーツモデルであったが、今は生産終了となっており、その10周年を機に新生ノースフラッグが発表されるとの予想も各メディアでは挙がっている(昨年のチューダー新作予想でも名前が挙がっていた)。​特に、一体型ブレスレットのスポーツウォッチはここ数年で大きな盛り上がりを見せ、市場でもすっかり定番として根付いた。にもかかわらず、それに対応するモデルがチューダーには存在しないため、ノースフラッグでその市場に参入するのではないかと思うのだ。

さて、2025年4月1日(火)から7日間にわたって開催されるWatches & Wonders Geneva 2025で、その答え合わせをしよう。もしそこで発表されなくとも、2025年以内に今回予想したモデルが出るかもしれない。ほかにもこんな予想があるとお考えをお持ちの方は、ぜひコメント欄やSNSで教えて欲しい。